キノイエの考え方は、建築家の趙海光(ちょう うみひこ)氏の提唱する「現代町家」の思想をベースに組み立てられています。本日は、この現代町家という思想について、少し解説を加えてみたいと思います。
「町家」と聞くと、昔ながらの家並みを想像する人も多いかと思いますが、現代町家の取り組みは、単に懐古主義の家を建てようというものではありません。むかしの町家に置き忘れてしまった、日本の暮らしのよさを現代の住宅事情と暮らし方に上手く取り入れることを基本にしつつ、地域ごとの特性に合わせ、ルール化された先進の設計システムによって合理的かつ経済的につくることを目的にしています。
ちなみに、むかしの町家を町家たらしめていたのは、「接道性」と「接隣性」だといわれています。この地域でも多くの町家は道に接し、隣家に接して、隙間なくびっしりと建っています。屋根・軒・格子を連ね、それが調和を生み、独特の美しい景観をつくり出していました。しかし、現在はそれと同じようには建てられません。道路後退や隣地境界など、今の建築法規に従わなければならないからです。
法規によって隙間や寸地が生じてしまうのが、今の家です。この半端な空地(くうち)が、家並みを崩し、不揃いな景観を生んでいます。建物はポジ(陽)で、残された空地はネガ(陰)にされてきました。現代町家は、このネガ部分に注目し、空地を部屋の一つに取り込む設計を考え出しました。
空地に木や草花を植え、そこを部屋の一部として内部化(ソトとナカをつなぐ)しながら、道路側にも開いて、家の前を通る人にもよき印象を与える、そんなあり方です。
そして、そこには共通の思想があり、総合して「現代町家憲章」と呼ばれています。関わる工務店は皆、この憲章に則った家づくりを行っています。
<現代町家憲章>
・美しい町並み景観をつくる家であること
・緑に溢れる家であること
・長い必要・好み・寿命に応える家であること
・地震で倒れない家であること
・自然エネルギーを活用した家であること
・特に、風がよく通る家であること
・きれいな室内空気の家であること
・木をたくさん用いる家であること
・土・紙など自然素材を用いる家であること
・楽しくお手入れできる家であること
・その家は、前を通る人の家でもあること
どれも普遍的であり、家づくりの本来の価値がここにあるのではないかと考えています。服を購入する時、単体で見た時のデザインと店員さんの説明を気に入り、買ってはみたものの、実際に出かける場面が想定できていなかったり、周囲と調和しない服であった場合、とても残念な結果になってしまいます。
住宅は一点ものであり、服のように買い直すことができません。商業主義になりがちな住宅業界の流れの中で、少しでも住まい手の皆様に、家を建てることの尊い価値を思い出していただき、永く住まい続ける喜びを最大限に感じていただけるような家づくりを続けていきたいと私たちは考えています。
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