「決算書を見せてもらえますか?」
September 6, 2016
「決算書を見せてもらえますか?」
これまでのお客様で、私たちはまだ一度も言われたことのない言葉ですが、もしかすると住宅会社選びで最も重要な要素の一つかもしれません。
それはなぜか?
さて、本日は、ここから特別に長いブログの文章になっております。やや難しいテーマでもありますので、真剣に住宅会社選びを考えている方以外は、飛ばしていただいて大丈夫です。
その会社の決算書を見る必要・・・実は、多くの住宅会社の経営基盤が非常に不安定であることに理由があります。それも、規模の大小や今現在の人気とは別の次元の話になります。ある時代に彗星のごとく現れ、破竹の勢いで売り上げ棟数を伸ばし、一躍業界のスーパースターに成長したかと思えば、わずか10年もたたないうちにある日突然経営破たんするという住宅会社は少なくありません。そして、その歴史は戦後日本の高度経済成長以降、ずっと繰り返されています。その昔、旧御三家と呼ばれた大手住宅会社のうち2社は既に過去に経営破たんを起こしています。また、2000年代に入ると、非常に悪質な会社も登場します。当時業界の風雲児として急成長株だったある住宅会社は、その実極めて厳しい経営状態に陥っており、倒産することを知りつつ、「今契約金を全額入金すれば○○割引きする」という手口で次々と新規契約を結び、その後破たんにより約500棟の未着工・未完成物件と共に多くの被害者が発生、経営者が詐欺容疑で逮捕され、大きな社会問題に発展したケースもあります。
もちろん、企業規模の大小に関わらず、起こっています。地元中小工務店の中でもある時期から行列のできる人気工務店として脚光を浴びていながら、同様に突然経営破たんするケースも少なくありません。この新潟県内でもデザイン力を武器に急成長した人気住宅会社が、突然倒産したというニュースは記憶に新しいところです。
ここで特徴的なことは、業界のトップ、エリアの販売実績トップクラスの有名企業であったとしても「潰れる会社は潰れる」ということです。
では、どこで潰れない会社、よい会社を見分けたらよいのでしょう?
その一つのバロメーターが「決算書」なのです。決算書は、いわゆる会社の健康診断結果です。健康状態に異常がある場合は必ず何らかの数字になって現れてきます。宣伝でよく見かける有名な会社だけど、その内実は経営が火の車という場合もあります。短期間で急成長した会社によくあるケースで、巷の評判とは無関係のところで、会社が大変な状態に陥っているケースも十分あり得ます。特に近年では、低価格を売りにした企業の熾烈な消耗戦で非常に財務状況の苦しい会社が増えてきているという業界の話も耳にします。
だから、ちょっと勇気はいりますが、ものは試しに「決算書を見せてもらえますか?」と聞いてみてはどうでしょう?
ただ、決算書に触れる機会などほとんどない方にとっては、実際に決算書を渡されてもチンプンカンプンだということになると思います。でも、それでもいいのです。まずは、決算書をすぐに見せてくれる姿勢がその会社や経営者にあるかどうかが大事です。もちろん、会社の重要な書類になりますので、簡単にペラペラとめくってコピーを取ってくれるという事はないかもしれませんが、経営の中身について堂々と説明できる姿勢があるかどうか(もちろん、経営者自身が決算書の中身についてよく理解しているか)が大事なのです。
反対に、その話を聞いた途端に態度を一変させる経営者もいるかもしれません。あるいは、「ウチは毎年黒字なので大丈夫ですよ」と具体的な数字には触れない会社もあるかもしれません。
本当に決算書を見る必要はないにしても、まずはその時の社長の反応を見るだけでも、何か気付くことがあるかもしれません。そして、その様子で気になった会社については、後日、疑問点を整理して再度ピンポイントで質問を投げることも可能です。
ただし、仮に決算書を見せてくれたとしても、注意しなければならないのは、その決算書が「粉飾」である場合です。特に、経営破たんのリスクがある会社の中には、既に何期にも渡り、粉飾が疑われる決算書を作成している場合があります。これは、素人には簡単に見破ることはできません。決算書のいくつかの項目を前後右左に移動させることで特定の項目をよく見せようとしたり、数字そのものを虚偽のものに差し替えるといった、企業会計で守らなければならない「一対一」の原則を破る悪質な経営者はいつの時代でも業界、規模の大小に関わらず存在します。
ちなみに、本当に疑わしい会社の特徴は、「会社の数字を公表したがらない」という傾向があります。例えば、取引先からの調査依頼などを受け、信用調査会社がその会社に訪問調査したり、決算書の提出を求めたりするケースがよくありますが、それを受けつけない会社もあるそうです。こうした場合、疑義があるとみなされ、当然ですが調査会社や金融機関からの査定評価に影響します。ちなみに、私たちは調査会社の依頼は全て代表者自らが応対し、質問されたことに対して全て開示、あるいは詳細な説明をさせていただいています。また、こうした情報は時として、下請けを中心とした協力企業やその関係者の間で噂として広がっている場合もありますので、参考になるかもしれません。
ちなみに、決算書には見るべきポイントがいくつかあります。
決算書には大きく分けて2つの諸表があります。
一つは「損益計算書」。昨年いくら売り上げ、いくら儲かったのか?と示す一覧表です。各項目どれくらいプラスかマイナスか?で見ることができるので、比較的わかりやすい表です。その中で、特に見てほしいポイントは以下の通りです・
◎営業利益
本業でちゃんと儲かっている会社はここの数字が高くなっています。反対に、ここでほとんど利益が出ていない、あるいは赤字である場合は、本業が上手くいっていないことを表しています。細かく突き詰めると、ここでしっかり支払う経費をちゃんと計上しているかどうかも重要になります。
◎経常利益
上記の営業利益+営業外の収支を合わせた利益の額です。
営業では儲かっていないのにそれ以外の収入で儲かっているという会社もありますが、その臨時収入が単発のものであれば、それは危険な状態です。臨時収入が途絶えた途端、経営が悪化する可能性があります。営業利益と経常利益の関係が見えてくると、その会社の状態がおぼろげながら見えてきます。
◎当期利益
正確には税引き前当期利益と税引き後当期利益があります。税引き後当期利益は、上記の経常利益からさらに特別な項目の収入と支出を差し引きし、当期利益を基に計算された支払うべき税金を支払った後の実質的な残りです。優良企業は毎年コンスタントに法人税等の税金を納めています。企業が支払う税金はその地域の大切な財源になります。しっかりといい仕事をして儲けを出し、その地域に還元していくことは企業としての重要な社会的責任です。
見ていただきたい諸表のもう一つは、「貸借対照表」です。これは、長年の企業活動を通じて、会社がどのような体つき、あるいは体力になっているかを示す指標で、簡単に言えば、人から借りた財産と自分で持っている財産のバランス関係を表す指標です。その名のとおり「バランスシート」とも呼ばれています。単純に、自社が自由にできる保有財産が多ければ健全、人から借りている財産が多ければ経営が不安定な状態であると考えると分かりやすいでしょう。
◎資産の部合計
会社が自前で保有している財産の一覧です。この中には、すぐにお金に変えられるものとそうでないものがあります。財産の中身の一つひとつについてはここでは割愛しますが、すぐにお金に変えられるものが多いと、いざというときに財産を現金化して、危機を乗り越えることができます。
◎負債の部合計
会社が抱えている負債の合計です、必要な借金もありますので一概には言えませんが、少なくとも短期借入金、長期借入金といった銀行等からの借入金額が適正かどうか?(いざという時にちゃんと返せるのかどうか?)を見ることが大事です。要するに借金まみれになっていないか?を見る指標です。単純に年間売上金額を超えるような借金をしていると要注意です。利息の支払いだけで首が回らなくなっているケースもありますので、その時は「損益計算書」の中の「営業外費用」にある「支払利息」の数字を見ると実態が分かります。
◎純資産の部/自己資本比率
ここが一番重要な指標です。会社の総資本に対する純資産の比率=会社の持久力を表します。自己資本比率が高ければ、自力で立てる会社、低ければ、他人のお金に頼っている会社となります。細かいことはともかく、自己資本比率が40%を超えていると優良企業(50%を超えるとかなりの優良企業)になります(粉飾の場合は別)。反対に20%を切ると倒産リスクの高い会社(成長中の会社で大きな投資をすることにより、一時的にこの数字が低くなるケースもあります)ただし、設立後間もない企業は、この比率が少ないケースが多いので、その場合は、毎年順調に比率が増えているかどうかを見ていくと分かりやすいと思います。ちなみに、この数字がマイナスになると即ち「債務超過」の会社という事になります。ただし、回収できない未収入金や大量の不良在庫や売れない土地など、本来なら不良資産として扱うべき数字を健全資産だと偽って資産に計上し、自己資本比率を高く見せようとしている会社もありますので、注意が必要です。
そして、決算書はできる限り最低過去3年前からの変化を見ることをお勧めします。安定的な経営を続けているのか、慢性的な営業赤字の経営なのか、あるいは、急成長してはいるが、そのために無理が生じていないか?「決算書の数字にはドラマが隠れている」と表現する経営者もいるほど、その中身に興味関心を持つことで、その会社の様々な様子や考え方がにじみ出てきます。
いかがでしたか?経営の重要な責任の一つに「永続する」ことが挙げられます。目先の売り上げ拡大や人気に気を取られ暴走し、財務の悪化に目を背けることは企業として極めて危険なことです。何より、お客様のその後の暮らしを守るという絶対的な使命を忘れてしまってはいけません。その会社の問題だけではなく、住宅業界そのものの信用につながる問題で、お客様に与える影響は計り知れません。
私たちキノイエを運営するカネタ建設は、先代経営者の意思を引き継ぎ、創業から83年の歴史の中、苦楽を重ねてながら堅実経営への舵取りから手を放すことなく、足腰の強い企業体質づくりに注力をしてきました。住まいづくりの中でうたわれる「安心・安全」の究極のものさしは、その責任を負っている住宅会社の「安心・安全」レベルなのだと思っています。
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