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建築家 趙海光先生からの応援メッセージ その2

September 7, 2016

キノイエの企画・設計・監修を担当していただいた建築家の趙海光(ちょう・うみひこ)先生から、素敵な応援メッセージの第2弾が届きました!現代町家の考え方を提唱し、全国の建築関係者から注目されているその道のエキスパートでもある趙先生が、私たちのために特別に寄稿していただきました。

 

趙海光

趙海光(ちょう うみひこ)先生

 

************

 

【その2 キノイエの職人さんたち】

 

みなさんこんにちは。残暑にあえぐ東京目黒から、二回目の応援メッセージを送ります。

 

前回は我が家のリフォームの話でしたが、こんどはキノイエの現場で出会った職人さんたちの話。とっても魅力的な人たちでした。ただし、実際にお顔を拝見したのは大工さんだけなんですけどね。なのにどうして魅力的だって分かるのか?

 

うん、そこが私たちの仕事の面白いところです。

 

 

趙海光先生

 

 

図面を描くとそれが現場で実物になるって、当たり前みたいだけど本当は凄いドラマだって思いません?

 

実物ができるのは図面があるから、では図面にはいったい何が描いてあるのか。

 

形?寸法?素材?色?どれも大事ですけど、でもいちばん大事な情報は「どうつくって欲しいか」というメッセージなんです。

 

もちろん言葉でそう書くわけじゃなくて、あくまでもこれは寸法や素材を通しての密かなメッセージなんですけどね。このメッセージがうまく伝わるかどうかが図面を描く人間の腕の見せ所。たとえばキノイエの障子の図面に、私は桟の幅15ミリと描きました。図面を受け取った建具屋さんはきっと疑問を持ったはずです。———ふつうの障子は外枠と中桟の寸法が違うはずなんだけど、なんでこの図面はどこもみな15ミリなんだろう?

 

 

このとき建具屋さんに、「あーあ、このヒト(図面を描いたヒト)現場を知らないな」と思われたらアウトです。そう思われないために、図面を描く人間は寸法や形にメッセージをこめる。この障子の場合、図面に描かれた全体の形を見たとたんに建具屋さんの疑問は解消されたはずです(きっと)。「ああ、なるほど、そういうことか、ヨシムラ式ね。」

 

前にもこのキノイエブログのどこかで触れられていましたが、この障子はかの建築界のレジェンド「吉村障子」の変形バージョンなのです。

 

 

キノイエ‗吉村障子

 

 

そのむかし吉村順三という昭和の大建築家がいて珠玉の住宅をつくりました。彼が編み出したのが升目の大きな荒間格子の障子です。で、その最大の工夫は中桟と縦框の幅を同じにしたところ。こうすると二枚の引き違い障子が、離れてみるとただの一枚障子に見えるんですね。

 

ところで正統の「吉村障子」は碁盤の目格子なのに、私の設計は縦格子で横桟は一本だけ。きっと職人さんは苦労したと思うのですが、その出来映えはなんとも見事なものでした。現場で完成した姿を見てちょっと感動。嬉しかった。

 

 

キノイエ

 

 

さてこんな話をしたのは、じつは心配だからです。———やがて職人さんとこんなふうに図面で語り合うみたいなつくり方はできなくなるんじゃないか。

 

いまはなんでも既製品の時代で、図面を介して職人さんと対話しながら手づくりするチャンスはどんどん減っています。当然のように職人さんも減ってますから、そのうち図面を描いてもそれを実物にするヒトがいない、なんてことになりそう。そうなると私も失業しちゃうわけで、うーん、これはピンチ。

 

でもね、こういう場合は明るくいったほうがいい。嘆いたって始まらないんです。嘆くよりは、どうやったらいまの既製品全盛の時代に職人さんの腕を活かせるかを考えるべきなんですよね。

 

 

こいずみ道具店のTongue

 

 

というわけで、キノイエ設計チームではこう考えました。つまり、全部を手づくりにしようなんて思わない。既製品が活かせるところは既製品でOK。ただしいまでも手づくりのほうがリーズナブルなところだってあるのだから、その部分をなるべく増やそう。

 

そこで私が思い出したのはあるグループのことでした。

 

東京に「わざわ座」というのがあります。「わざわざ、やろうよ」を合い言葉にした職人、デザイナー、工務店の集まりです。彼らが考えたのは「職人が手仕事でつくる道具を、デザイナーが計画して、工務店が四方良しの価格で住み手に手渡す」というやり方。つまり「手仕事を活かすためのネットワーク」なんですね。

 

「四方良しの価格で」なんて、泣かせるじゃありませんか。大工さんに頼んでテーブルやキッチンを手づくりしてもらう、なんてことはこれまでにもよくありましたが、ここではそれをもっと組織的に計画的にやろうというわけです。

 

 

平牛の家テーブル

 

 

これをお手本にキノイエでも、障子に限らず他のところにもできるだけ手づくりのパーツを増やそうとみんなで知恵を絞りました。キノイエに置かれているソファー、テレビボード、パントリーなんかはそんな考え方から生まれたものです。

 

 

箱パントリー01

 

箱パントリー‗キノイエ

 

キノイエ

 

 

これらはみんなキノイエの大工さんが、新潟産の厚板を素材にして型紙(図面)からつくってくれました。型紙は保存されていますから、お望みならこれをお読みの皆さんにも同じものをお分けできます。(値段はたぶん家具屋で買うよりも安いはず。)

 

IKEAで量産品を買うのもよいですけれど、チャンスがあったらキノイエネットワークがつくる新潟産厚板クラフトワークの品々を使ってみませんか。そうすると地場の製材所や職人さんにもお金が回って、ちょっとだけみんなの暮らしが良くなります。

 

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趙先生、本当にありがとうございました。これからもどうぞよろしくお願いいたします。(キノイエ スタッフ一同)

 

 

趙海光先生とキノイエスタッフ

 

 

趙海光

 

趙 海光  ちょう うみひこ  (一級建築士)

1972年法政大学工学部建築学科卒業。1980年(株)ぷらん・にじゅういち設立。
1990年代に台形集成材を使用した一連の木造住宅「台形集成材の家」を設計。
2000年代に「フツーの木の家」シリーズ。
2007年以降は町の工務店ネットと共同で「現代町家」シリーズに取り組む。

一貫して国産材を使用した現代型の木造住宅を設計するとともに、『住宅建築』誌を中心に木造住宅についての論考を多く発表し、国産材の開発と普及に努めている。
編著書に『高山建築学校伝説』鹿島出版会。
また『新建築住宅特集』に「在来工法ファイル」を連載(2004~2005年)

受賞歴

2011年 「びおハウス」により、チームおひさまのメンバーとしてグッドデザイン賞。
2009年 「博多・現代町家」により、町の工務店ネット、長崎材木店とともにグッドデザイン賞。

 

 

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