お客様からのご依頼により、まちなかのとある空き家のリフォームのご相談をいただき、本日その空き家の調査に入らせていただきました。
建物は、以前まで食品関連の製造販売を行っていた店舗兼住宅。限られた間口から奥に向かって伸びる、いわゆる昔ながらの町家です。店舗スペースの奥には居間、そして京町家でいうところの「通り庭」と呼ばれる、奥まで続く土間通路を歩いていくとさらに奥に部屋が続きます。電気は停止されていましたが、部屋と部屋の間に設けられた坪庭から差し込む外の光が柔らかく室内を照らし、池や植栽でまとめられた庭と向かい側の軒など、風情のある景色を家の中の三方向から眺めることができます。
そして、さらに奥へ足と進めると仕事場が。空き家になって久しいですが、ご主人が長年大切に使っていた仕事道具もまだそのそのままの状態で鎮座しており、今にも仕込みが始まりそうな雰囲気を残しています。それは単に、モノが残っているということだけではなく、道具はもちろんのこと、家の動線、収納、仕事場や台所の立ち位置など、家の機能として隅々までしっかりと大切に使われてきた痕跡が随所に残っているからだと思われます。
住まいは、そこに人が住まなくなると途端に風化が始まり、数ヶ月もたたないうちにあらゆるところが痛んで居住に耐えられなくなるという意味から、よく「生き物」に例えられることがあります。こちらの建物ももちろん至る所に痛みが生じていましたが、しかしそこにはまだ、人のあたたかさや丁寧さを感じる「暮らしの残像」がしっかりと残っており、何とも表現し難い生命力のようなものを感じさせてくれます。
ご依頼主のお施主様もまた、こうした暮らしの残像に魅力を感じられたのかもしれません。「家はプランが命」ということをもう少し掘り下げて表現するなら、「(その人の暮らしをしっかりと見つめ)隅々まで使い込まれることを考え抜かれた家には、強い生命力が宿る」ということなのでしょう。そして、その真価は、こうして一旦役割を終えた後の「暮らしの残像」に現れるのかもしれません。
私たちもまた、人を惹きつける暮らしの残像が映し出される家をつくっていきたいと思います。
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