こんにちは。
前の記事でも少し触れましたが、今日は「10年間使えるもの」について書きたいと思います。
これは30代になったばかりの頃に担当していた雑誌企画のテーマでした。30代前半というと、ひとり暮らし10年目を迎えるひとも多いと思います。折しも、「ロングライフデザイン」や「パーマネントデザイン」「アノニマスデザイン」という言葉が雑誌に並んでいた頃です。
「長く使えるいいもの」というものがブームになっているのを見ながら、「でもひとり暮らしを始めたときって、最初からそういうことを考えて身の回りのものを買っていたかな……」と自身の暮らしを振り返りました。
「ひょっとしたら、ロングライフデザインだと考えずに使っているものの中にも、長く使えるものがあるんじゃないかな? 名デザインと言われるものじゃなくても、使い手にとっての名デザインはあるかもしれない」と思ったのが、企画を出したきっかけ。
連載では「10年以上使っているもの」「できるだけ無意識に使い続けているもの」「そのものとの出会いから振り返って1人称で語ってもらう」ということを、数名のクリエイターにお願いしました。出てきたものは「実家から持ってきてしまった果物ナイフ」「使っていた眼鏡が壊れたときに急遽買ったものの、自宅用に下がったスペア眼鏡」などなど。他人にとっては名デザインとは言い難いものが、そのひとの暮らしの名デザインだったりする面白さ。
8回の引越しでもなぜか捨てることなく持ち歩いた、オリーブオイルの缶。
ちなみに私の場合。「ゴミ箱代わりのオリーブオイルの缶」です。
大学時代、イタリア料理店でアルバイトをしていた友人が「余っているからいる?」とうちに持ってきたもの。特にほしいわけでもなかったけど、何となく部屋に置いていたら、無意識にゴミを投げ入れていて、そのままゴミ箱という役割に。
ひとり暮らしを始め、部屋も増えたりして、リビング用にはDANESEのin attesa、キッチン用には無印良品とちゃんとしたゴミ箱も買い足しているのですが、寝室はずっとオリーブオイルの缶。思えば、もらってから20年近く経っていました。改めて見直すと、サイズも小ぶりで軽く、寝室のゴミ箱としてとても使いやすい。色もあせてしまって、絵柄の主張もなくなり、すっかり部屋に馴染んでいます。
こちらはDANESEのin attesa。斜めになったゴミ箱。エンツォ・マーリのデザインです。
デザイン誌に携わっていた20〜30代は、情報があった分だけ、部屋のものをひとつ買うときにも(選択眼的にも金銭的にも)かなり頑張っていたなぁと振り返って思います。ひとり暮らしを始めて、自分らしい暮らしを創るぞ!という気負いみたいなものがあったのかも。
ある程度、暮らしが整ったいま、このオリーブオイル缶を見てると少しほっとしています。隙って大事だなぁと。
<村岡利恵>
長年東京でインテリアやデザイン関連の雑誌編集に携わる。2016年に長野県大町市へとIターンし、2017年の初夏から高瀬渓谷の森のなかの別荘地で「HÜTTE muu muu」という朝食だけのカフェと編集&デザイン業を営む予定。キノイエスタッフと縁があり、雑誌編集者時代に触れたいろいろなもののことや、高瀬の森での新しい暮らしづくり、旅のことなど、当ブログで不定期に執筆。
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