民藝運動家がつくった「用の美」の家
September 6, 2017
先日の京都探訪の続きです。
京都の建物探訪といえば、数多くの有名建築家の作品や、国宝でもあり世界最長の木造古建築といわれる蓮華王院の三十三間堂を始め、多くの歴史的な寺社仏閣が連想されますが、今回ご紹介するのは、「河井寛次郎(かわいかんじろう)記念館」です。一般にはそれほど有名ではないかもしれませんが、建築関係者にとっては、学ぶべき要素が満載の建築作品ということで、ご紹介をいただき、足を運んでみました。
この建物は、民藝運動の父と呼ばれた柳宗悦(やなぎ むねよし)氏と共に民藝運動に深くかかわった陶芸家の河井寛次郎氏の居宅兼工房として、寛次郎氏自身の設計により建築されたと伝えられています。大工棟梁は、兄の河井善左衛門。
住宅街の中にひっそりと佇むこの建物は、内観は重工で骨太な古民家。外観は寄棟造妻入り。船枻(せがい)造り、または出桁(でげた)造りとも呼ぶ、柱の上部から腕木を出して支える棚をもつ民家の手法で造られています。千本格子や矢来など、京都の町家の意匠を取り入れ、囲炉裏付の板敷広間の空間構成や古色仕上げの材、漆塗りの建具などに独自の住宅観や美意識が感じられる点が特徴とされています。
私たちが特に注目したのは、暮らしと仕事が両立できるよう、敷地全体をデザインしている点。
河井寛次郎氏のデスク。二階から中庭を臨むいちばん眺めのよい場所。奥にある登り窯の様子も伺うことができます。一階にいる客人の声を聴きながらもその視界には入らない絶妙な位置。
住まいの奥には大きな登り窯があり、創作活動に没頭した河井寛次郎の息づかいを今でも感じさせる建物です。美しさと実用性を兼ね備え、さらに訪れた客人を喜ばせるための様々な視覚的な工夫が散りばめられた魅力的な住まい。まさに「用の美」を自邸で見事に表現したともいえるのではないかと思います。
ソトとナカを結ぶ空間美学、パブリックとプライベートを巧みに配置した設計力は、河井寛次郎氏を単に優れた陶芸家と括ってしまうにはあまりにも勿体ないと思ってしまいます。
ご興味のある方は、ぜひこの記念館に足を運んでみてはいかがでしょう?
河井寛次郎記念館
京都市東山区五条坂鐘鋳町569
075-561-3585
www.kanjiro.jp/
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