「サーブド・スペース」「サーバント・スペース」という言葉があります。建築の世界ではよく使われる用語です。
この言葉は、建築家ルイス・カーンがつくった用語です。カーン氏は、建築にはサポートされる機能空間=サーブド・スペースと、サポートする機能空間=サーバント・スペースがあると考え、これを明確に分離して設計をしていました。
具体的には、リビング、ダイニング、寝室などはサポートされる機能空間=「サーブド・スペース」、収納やトイレ、浴室、玄関ホールなどはサポートする機能空間=「サーバント・スペース」と分けることができます。一般的に、居場所としてのリビングやダイニングなどのサーブド・スペースを充実させること、同時に充実はさせたいものの、闇雲に広げればダイレクトに建築コストに跳ね返ってしまう収納などのサーバント・スペースをいかに考えるか?ということが住まいの設計としてとても重要になってきます。
しかし、実は、サーブド・スペースとサーバント・スペースは、時間と使い方でその役割が変化したり、融合させることができる側面もあります。
例えば、キッチン。そもそも料理をする作業場として見れば、単純にサーバント・スペースですが、夫婦、あるいは親子で会話を楽しみながら共同作業する場面や、一人であっても趣味や考え事を楽しむ居場所として捉えると、キッチンは間違いなくサーブド・スペースであるといえます。物置ならサーバント・スペースですが、趣味と作業を兼ねたユーティリティーであればサーブド・スペースです。
また、仮に設計上サーブド・スペースが広く取れない場合でも、サーバント・スペースとゆるくつなげることで、居場所が大きく変化するケースもあります。例えば、玄関。ここは一見、完全なサーバント・スペースに見えますが、玄関土間とリビングをつなげたキノイエの設計では、この土間はリビングの一部、つまり、サーブド・スペースになります。宅配業者や突然の来客対応の時だけ、障子で仕切ることにより、一部が独立したサーバント・スペースに変化します。キッチンとダイニング、そしてリビングとをつなげる設計はもはや一般的に思えますが、ひと昔前の日本では、台所と居間は切り離し、お客様からは見えないようにする設計、つまり台所というサーバント・スペースは「隠す」という考え方が一般的でした。
サーブド・スペースとサーバント・スペースの機能を時として切り替えたり、ゆるくつなげることで、実は住まいはコンパクトでありながらも、広がりと奥行きが生まれ、ゆとりのある空間に変化させることができます。そのための設計技法として、例えば「床と天井の連続性」など、様々な工夫が存在します。「小さくつくって大きく暮らす」・・・キノイエは、こうしたいくつもの建築フィロソフィを大切にしつつ、一棟一棟丁寧に設計しています。
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